けいおん!

映画 けいおん!  (Blu-ray 初回限定版)

映画 けいおん! (Blu-ray 初回限定版)

 今更だけど映画「けいおん!」を視聴。職場のオタトモ(女子)にまだ見てないことを告げると、翌日布教用のブルーレイを持ってきた。例えライト層と言えどヲタを名乗るなら見るべきであるという有難い(迷惑な)御言葉とともに貸していただいたので、せっかくなので鑑賞。

意外に楽しめたことにびっくり。京アニの相変わらず変態的な背景の描写力に感嘆。ロンドンの背景を見てるだけでもそこそこ楽しめると思う。物語の方も日常系の枠内で起きうる最大のブレ幅をしっかり描き切っていて飽きさせはしない。主人公達の描写も海外という日常モノに一番場違いな非日常の世界に放り込んでおきながら、積み上げてきた世界の延長線上のままに描き切っている。まぁ終盤のダレダレ具合はどうにかならんかったのかとは思うが、最後にアニメシリーズの空気感を持ちこんで終わらせたかったのだろう。この手の作品を映画枠に拡大するというハードミッションを見事にクリアしていて、製作者に惜しみない賛辞を贈りたい。
 
 
 ただそもそも私は「けいおん」という作品が好きではない。アニメ放送開始前に原作を試し読む機会があったが、あれを読んだ時の悪い意味での衝撃は忘れられない。それは言うならば真っ白い箱の中で記号が書かれた紙人形によって演じられる人形劇とでも言うべきだろうか。ヤマなし、オチなし、イミなしであることに加え、作品世界を構成する背景の欠如は、まるで箱庭療法を見ているような空虚さに満ちていた。一つの漫画の世界観に対してあそこまで感覚的な意味での断絶を覚えたことはかってなかったと言ってもいい。
 (余談だがその後ちょこちょこ他の萌え系四コマを読む機会もあったが、大抵同じようなもので可愛くデフォルメされたキャラがコマの中に大写しされているだけでその背景がまるで描かれていないものばかりだった。その手の四コマ漫画の演出的技法として背景の省略というのが定式化されてるのかもしれないが、つまるところただの作者の技量不足が露呈しているだけだと思う。だいたい単純に単行本一巻まるまる読んでクスリとも笑えない萌え系四コマ漫画って存在意義的にどうなんだろう。)
 転じて始まったアニメは見る気さえおきなかったが、後年ご存じのように深夜アニメとしては異例のムーブメントを引き起こすことになる訳だ。こうなると将来の流行りもの好きの血は抑えられず、一度チェックしなければという使命感のようなものすら沸いて出て、いそいそとDVDをレンタルしてくる訳である。しかし結局のところアニメも三話分以降見る気はおきなかった。
 原作とは違い世界観に拒否反応を抱くことはなかった。当たり前の話だがアニメでは京アニの演出力によって原作にはなかった背景がきちんと存在していたからだ。原作の演出力の欠如を残酷なまでに浮き上がらせる作りこまれた書割は、彼女達が存在する世界を完ぺきに構築し、「けいおん」という物語は初めて日常系としての世界観を確立したと言っていいと思う。
 ただやっぱりそこにはあるべきはずの物語が存在しない。彼女達の世界には日常しか存在しないし、不確定で非合理な、あるいは理不尽な事柄は排除されている。さらに彼女達の関係性において人の悪意は存在しえず、ただひたすら善意の積み重ねによってのみ画面上は時間が進んでいく。あるべきはずのものを排除した人工物的な「自然な日常」しか存在しないのだ。僕はそこから精巧なからくりで動く人形達の模型を眺めさせられているかのような不愉快さを感じてしまったのだ。
 なまじアニメの世界が良くできていてキャラクターの個性も立っているからこそ、そこに感じてしまう忌避感。それは極端にいえばエロゲの少女監禁モノのような背徳的な感情、あるいは嫌悪感につながるものがあると思う。彼女達は結局見ている人達の理想を具現しているにすぎないのではないか?という思いが視聴しながら常に頭の中のどこかで囁かれている感じだった。
 つまるところヲタとして未だ箱庭的二次元世界を楽しめるほど突き進めていない未熟さを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。