モンスターズ 地球外生命体

モンスターズ / 地球外生命体 [Blu-ray]

モンスターズ / 地球外生命体 [Blu-ray]

 去年流行った超低予算SF映画の流れのなかのイギリス映画。TSUTAYAの紹介文には製作費130万円で撮られたと明記してあり、公式サイトにも

昨年の第63回カンヌ国際映画祭。世界各国から話題作が多数集められるこの華やかな映画の祭典で、彗星のごとく現れ突如として世界の注目作品へと変貌した一本の映画があった。それが、製作費がたった130万円(1万5千ドル)といわれる超低予算映画、「モンスターズ 地球外生命体」だった。

 とはっきりあくまで製作費130万円と謳ってるが、最初に言っておくとこれ完全にインチキである。
 まぁちょっとでも映画見てる人なら製作費130万円で市場に流通する映画を撮るなんてことは不可能だってことはわかるだろう。実際そこらの大学サークルの自主製作映画でも場合によってはつぎ込むこともあるんじゃないかってぐらいの額だし。それこそ人件費ゼロ、場所代ゼロ、その他オールコストゼロで撮れる人間、例えば某国の独裁者でもなけりゃまともな映画作りなんて無理な話である。
 ちなみにwikiを見ると1万5千ドル=130万円はあくまで「設備機材費」であり、製作費自体は50万ドルかかっている。要するに130万円分の機材しか撮るのに使ってませんよってことだけなのだ。しかも視覚効果アーティストの監督が自宅のスタジオを使って完成させたらしいので、実際はもっとハイスペックな機材もいくらか使っているのだろう。(いやそれでもこのレベルの映画を完成させたというのは考えられないぐらい凄いことなのだけど。)
 正直誇大広告で訴えられてもおかしくない嘘を堂々と煽り文句にする配給会社の姿勢に疑問を抱かざるを得ない。大体製作費50万ドルというのも十二分に超超超低予算と言っていい額だ。低予算を売りにしてた「第9地区」だって、3000万ドル製作費にかけているのだ。ハリウッドの映画関係者に50万ドルでモンスター映画作りましたなんて言っても誰も信じないだろう。邦画だって日本円にして4、5千万で全国展開する映画なんか作れないだろうし、せいぜい単館系の映画を撮るのが精いっぱいなはずだ。たかたが50万ドルで世界中でパッケージ化されて流通する映画を作った製作者の偉業が、この低予算で作り上げた裏にある様々な苦労や工夫が、配給会社のついたありえない嘘のせいで汚されてしまっているような気がする。配給会社のこの映画の担当者には猛省を促したい。
 
 さて肝心の映画の内容についてだが、率直にエイリアン映画としての感想を言えば、やっぱりお金はないよりあるほうがいいよね!と言ったところか。そこそこ見れる映画には仕上がっているが、ストーリー、エイリアンの造型的にスピルバーグ宇宙戦争とかぶるので、どうしても金をかけた完成品が比較対象に上がってきてしまうのがつらいところ。
 主題にもなっているモンスターの登場シーンについては褒めるにしても、低予算にしてはという枕詞をつけて褒めなければいけないし、仮にこの映画が低予算映画であることを知らずに見てれば酷評するしかない出来だ。予算の関係で動いているモンスターが出てくるのは実質数回な訳だけど、どのシーンももうちょっと頑張れたのではないかという印象が強い。とくにラストのシーンは緊張感が必要なカットがあっという間に終わってしまい拍子抜けの感が拭えなかった。どうせなら登場をラストまで引っ張ってそのワンシーンのみに全力を傾ければよかったのではないかと思う。
 ただモンスター登場シーン以外の画面やストーリーは良質。つまりモンスター映画として見ずにエイリアンが襲来してパニックになったあとのパニックが日常になった「非日常の中の日常」を描いた映画として見ると実は一級品なのだ。とにかく低予算映画とは思えないほどしっかりとしている。お金がなくても諦めないという姿勢が素晴らしい。作りたい絵を画面上に生み出す金がなければ観客の脳内で補完させるというのは貧乏映画の定番ではあるが、その定番をしっかりと遵守し、金がないから出来ないという逃げをうっていない。小さいながら説得力のある看板や小道具をしっかりと配置し、恐らくハリケーンか何かで実際に壊れたであろう瓦礫の街の中で撮影をし、生活感が必要な場面では実際に生活している人間達を撮るという裏技を使いといった具合にあらゆる場面で観客に世界を想像させるための努力を怠っていない。だからこそ画面上にはしっかりとしたリアリティが存在し、描かれない裏側も観客側が想起できるような作りになっている。(ここらへんはいくら金をかけても隙だらけで、想像する意欲も沸かないようなちゃちい画のいくつかの某漫画原作邦画と比べるとよくわかる。)
 もちろん全体としては前述のようにお金をしっかりとかけて撮った一流の作品には比べるべくもないが、お金をしっかりとかけて撮ったけど二流以下の作品に比べればこの作品はアイデアと質の面で遥かに凌駕している。
 超低予算ながらそこらのハリウッドのモンスター映画に勝る世界観を作りだした製作者のアイデアと努力に惜しみない賛辞を贈りたい。イギリス映画らしいアメリカ社会に対する皮肉な寓話的スパイスも盛り込まれ、個人的には一時間半しっかり楽しめた映画だった。万人受けは絶対しないがこの手のSF映画や話が好きな人はぜひ見ておくべき一品。
 ちなみにこの監督がハリウッド版ゴジラを撮るらしい。与えられた潤沢な予算の中でどんな仕事をするのか非常に興味がわく。個人的にはローランド・エメリッヒのやつもそこそこ好きなんだけど、あれとはまた違ったベクトルの作品が出来そう。二年後公開だそうで、そろそろクランクインな感じだろうか。今から楽しみ。