ガタカ

ガタカ [Blu-ray]

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 設定というか舞台作りが完ぺき。レトロ・モダニズムな建物とか、SF黎明期の近未来的なイメージを再現した部屋の内部など用意された舞台装置が、映画の冒頭に表示される「そう遠くない未来」という一文がイメージさせる世界と完全に一致している。リアリティに走ることなく、かといって過度に幻想的でもなく、映画が映し出すべき別世界を完ぺきに構築している。
 展開されるのは優生学に基づいた管理社会でのお話。遺伝子操作によって優れた資質を生まれながらに持つものだけが社会に居場所を与えられ、持たざる者は最初から被支配層としてしか生きることを許されない。
 だがそんなガチガチの管理社会を描いているはずなのに、人間は人間として生きているのが本作の肝だと思う。社会にとって反逆者である主人公達は言うに及ばず、社会に従順に生きる体制側の人間達も人間らしさを失ってはいない。主人公に惹かれていくヒロインも、主人公を追い詰める刑事も、そしてシステムを運営し適用するはずの人々も、理性だけではなく感情で物事を判断し、そのこと自体を是として捉えている。
 結局ディストピアを構築しその中で生きていくのも人間ならば、それを破壊することができるのも人間なのだということだろうか。人が人として生きてさえいれば、どんな社会にだって適合することは可能だし、逆にその社会を変革することも可能だという本質的には人間賛歌的な映画なのだと思う。
 まぁ間違ってもリアルなSF映画という訳ではないのでそこのところは勘違いしない方がいい。倫理的な啓蒙映画とでもいうべきか、何かに感じ入りたい気分の時にオススメな映画かもしれない。

 ところで実は本作を子どもの頃に親に連れられ劇場で見ている。しかしまったくと言っていいほど記憶に残っていない。12歳程度の頭では理解しがたいものだったのだろう。っていうか当時親に連れられて劇場に見にいったものを思い返すと結構アレなチョイスばかりである。イングリッシュ・ペイシェントとかも見た記憶あるし、およそ子どもには向かないだろう作品が多い。銀座や渋谷のミニシアター系も何度か連れられて行った覚えがある。今考えると親のデートに子どもが付き合わされる感じだったのだろうか……。よく文句言わなかったもんだな俺……