読書の秋〜

無理

無理

 「最悪」、「邪魔」に続く奥田英郎のクライムノベル三作目。高校生の頃に「最悪」を読んで以来のファンなので、非常に楽しみにしていたけれど、率直に言うと前2作には及ばない出来。
奥田英郎の群像劇は社会の下層近くに蠢く人々の日常と感情の迫真さと、群像劇が複雑に絡み合い最後に集結するプロットの巧みさが売りだと思う。
今回のは前者に関しては文句の付けようがない描写だったのだけど、後者に関しては少し温さが目立つ筋立てになってしまっていた。とくにラストがバラバラの線を最後に無理やり集めてヲチをつけたような粗さが出ていてかなり不満。「最悪」のバラバラのストーリーがラストに向けて集束していくのを読み進めていく興奮感は素晴らしいものがあって、今回もそれぐらいの興奮感を求めていたら肩すかしで終わってしまった。
 ただ相変わらず下層階級の鬱屈する感情と、放出される不満の描写は素晴らしい。迫真と呼ぶにふさわしいリアルさ。読んでいて非常に暗い気持ちにさせられる。日本の地方都市の現状って本当にこんなに酷いのだろうか。
 それだけにストーリーに十分なカタルシスが用意されてないのは残念だった。とりあえず次に期待。 小川一水よ。本当にこんなのまとめきれるのか?
全六巻構成のSF大作が刊行開始。まだ一部しか終わってないので評価のしようがないけれど、若干先行きに不安が見えるのは否定できない。
まだ大作に手を出すのは早かったんじゃないかな〜
獄窓記 (新潮文庫)

獄窓記 (新潮文庫)

 元民主党議員山本譲司による刑務所体験記。
 当たり前のことだが圧倒される内容。現世で安穏と暮らしている身には想像もできなかったような描写ばかり。議員経験者にしては思いのほか読みやすくわかりやすい文体が、読む者の想像像力を刺激し、迫真の写実感が生まれている。
印象的な部分としては
「なにしろこっこは(排泄物を)掃除する側の衛生面になんか、全然、配慮しちゃくれませんからね。」
障害者の囚人の介護を行う囚人が嘆く一節だが、まさか消毒もさせないでそんな作業に従事させているのか?
人権侵害でふつうに訴えたら勝てそうな気がするが…
 こういう経験を乗り越えた人間にこそ国会議員を努めていただきたいと思うのだが、本人にはもうその気はないらしい。残念。